札幌高等裁判所 昭和25年(う)637号 判決 1951年3月08日
控訴人 被告人 畑邦夫
弁護人 大塚守穂 外一名
検察官 小松不二雄関与
主文
本件控訴を棄却する。
当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
弁護人等の控訴趣意は別紙記載のとおりである。
第一点について。
原判決挙示の証拠によると、被告人は熊谷彰、板山昭次の両名から同人等が他から窃取したものであることを承知の上で、昭和二十五年五月五日頃北海道上川郡下川町市街地料理店いろは方で、杉綾織洋服生地ダブル巾五碼半のうち約二碼半を貰い受けることとし、その部分は被告人の選択にまかされ、右五碼半全部の引渡を受けたことが認められるのである。従つて、右五碼半のうち約二碼半については、贓物収受罪を構成するものと解するのが相当で、これと同趣旨に立つ原判決は正当であつて、論旨には到底賛成しがたいから、これを採用しない。
第二点について。
所論に考え、本件記録に現われている諸般の情状を参酌考量するも原判決の量刑が不当であるという事由を発見することができないから論旨は理由がない。
よつて刑事訴訟法第三百九十六条に従い本件控訴を棄却し、同法第百八十一条に則り当審における訴訟費用は全部被告人の負担とし、主文のとおり判決する。
(裁判長判事 黒田俊一 判事 猪股薫 判事 鈴木進)
弁護人大塚守穗同大塚重親の控訴趣意
第一点原判決は「被告人は熊谷彰、板山昭次の両名が他から窃取したものの情を知りながら両名から昭和二十五年五月五日上川郡下川町市街地料理店いろは方で杉綾織洋服生地ダブル巾約二碼半を貰い受けてこれを収受したものである。」と認定して之を贓物収受罪に該当するものとして被告人に懲役六月の刑を言渡したのであるが、右判決は左の点に於いて不当である。
(一)贓物収受罪は贓物たるの情を知り無償で収得した場合に限り成立するとなすのが大審院の判例(大正六年(れ)第一九六号)であるが、被告人は収得の約束はしたことはあるが収得物が不特定であるから、債権契約があつたにすぎず収得の既遂の域に達していない。
この点は原審に於て検察官が証拠物として無裁断の洋服生地ダブル巾五碼半を提出し領置せられていることでもわかる。
ダブル巾五碼半の服生地が未だ裁断されていないことは、証拠物を一見すればわかることでこの内二碼半を収受したといわれるのは、これによつてズボン三足をつくりその一足と余つた生地とを被告人が貰う約束をした(被告人の第二回供述調書)ことをいうのである。
証人熊谷彰の証言によつてもダブル巾二ヤール半を被告人に贈与したとの供述はあるが、五碼半ある現物のどの部分二碼半と特定して贈与した趣旨の陳述はない。
然らばそれが裁断せられずズボンも作られていない状態ではまだ被告人の貰う部分が特定しておらず将来裁断加工した余分を貰いましようと約束をしただけの状態なのである。
(二)贓物の収受罪は単なる契約によつて成立するものでないし「収受」を「運搬、寄蔵、故買、牙保の目的を以て受領する場合以外のすべての受領」と解することは刑罰法規の拡張解釈で不当である。
本件の場合被告人の取得すべき部分が分離特定するに至れば贓物収受の既遂となるが、分離特定しない内は贓物収受は未完成で未遂と云うべきで、此の罪は未遂を処罰する趣旨でないから被告人は贓物収受の未遂にすぎないものとして無罪の判定をうけるべきである。
第二点量刑過重
本件について証人熊谷彰は被告人の情状について不利益な供述をしているが、同証人の供述を吟味すると矛盾甚だしく信用し難い、例えば熊谷証人は被告人が前の晩何か盜んでこいと云つたと陳述しているが、もし本当に被告人がそんなことを云つたものとすれば、盗んで来た当日「盗んだ品物を警察へ届けた方がよい」とか贓品が何処かに捨てゝあつたことにして被告人が発見したことにして被害者に返したらよいではないかと被告人が熊谷に云う筈はないではないか。
又同証人は贓品運搬に被告人が見張をしたと供述したが詳しくきくと、それは一旦熊谷宅の裏に運びかくしておいた贓品をいろはに運ぶときのことであると云う。
本件被告人の行為は正しい行為と云うことはできないけれども、少量のことであり目的物は手をつけぬまゝ他人の所に置いてあつたことであり、もし被告人が有罪であるとしても懲役六月の刑に服せしめるのは可愛想である。今少しく軽く寛大に願いたいものである。